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「レトロゲームの町にしたい」 壮大な夢をのせた小さなイベント、近所の家族連れでにぎわう

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「ゲームセンターBEEP」会場に設置された懐かしのゲーム(※筆者撮影。以下同)

レトロPC・ゲーム専門店「BEEP」を経営する、株式会社三月うさぎの森が主催した、懐かしのゲームが体験できるイベント「ゲームセンターBEEP」が、埼玉県羽生市のMD Libraryで12月10(土)~11日(日)にかけて開催された。

本イベントの開催は、今年の9月に続き2度目となる。前回は台風の上陸とタイミングが重なったにも関わらず、来場者が200人を超え好評を博したことから、早くも第2回の開催が実現した。

会場には誰でも無料で入場可能で、同社が保有する80~90年代に登場した懐かしのアーケードゲームを、すべてフリープレイ(無料)で設置。筆者が10日の昼頃に足を運んだところ、会場内はすでに小学生以下の親子連れを中心にほぼ満員だった。

子供たちは、自身が生まれるよりもはるか昔に登場したゲームを夢中になって遊び、パズルや格闘ゲームを親子で対戦する姿もあちこちで見受けられた。同社によると2日間合計の来場者は、近隣の在住者を中心に500人を超えた。

ビデオゲームだけでなく、今では滅多にお目にかかれない、懐かしのメダルゲームも設置していた
ビデオゲームだけでなく、今では滅多にお目にかかれない、懐かしのメダルゲームも設置していた

そもそも、本イベントを始めた目的は何だったのだろう? 同社のBEEP広報、丸山満に伺うと、驚くことに営利目的ではなかった。

「以前から、本社のある羽生市で地域貢献をしたいと思っていたところ、会場のMD Libraryでワークショップなどを実施しているMALL DESIGNさんから『ゲームを置きたい。町おこしの一環として、地元の商店街も巻き込んで盛り上げたい』とオファーをいただきましたので、我々も一緒に盛り上げていこうということで始めました」(丸山氏)

自分たちの商材であるレトロゲームを活用し、採算を度外視してまで地域に貢献するのが目的だったとは意外だった。ちなみに会場のMD Libraryは、元々は洋品店だった空き物件を再生、活用するために作られた施設だ。

地元商店街の一角にある空き物件を再活用した、会場のMD Library
地元商店街の一角にある空き物件を再活用した、会場のMD Library

会場近くの駐車スペースを利用して、地元の雑貨ショップの出店、ワークショップコーナーなども設置された
会場近くの駐車スペースを利用して、地元の雑貨ショップの出店、ワークショップコーナーなども設置された

「ゲームセンターBEEP」は行政にも好感を持たれたようで、羽生市の広報がプログラムのひとつとして公報やLINEなどを通じて本イベントを紹介してくれたそうだ。その効果もあって、会場内は客足が終日途絶えることがないほどの盛況となった。

「ご家族の皆さんでゲームを楽しんでいるのを見ていると、こちらも微笑ましくなります。イベント実施して本当に良かったですね」(丸山氏)

懐かしのピンボールを親子で楽しむ光景も見られた
懐かしのピンボールを親子で楽しむ光景も見られた

だが、驚くのはまだ早い。同社では本イベントの成功を機に、将来的には羽生市内に多数のレトロゲームを展示する「ゲーム博物館」をオープンさせることを視野に入れているのだ。

「社長も含め、我々は羽生市にレトロゲームの博物館を作りたいなと、ずっと以前から考えていました。羽生市を『レトロゲームの町』にしたいと、我々はそんな夢を持っているんです。

 今回の『ゲームセンターBEEP』でも実施したように、ただ押し入れに眠ったままのゲームを飾るだけでなく、我々の手で修理やメンテナンスしたうえで、遊べる形で展示するのがポイントです。ゲームは実際に遊ばないと、その中身は全然わかりませんよね」(丸山氏)

いくらレトロゲームを商材として日々取り扱っているとはいえ、まさか同社がそんな壮大な夢をも持っていたとは……これには筆者もビックリたまげた。

別会場にはファミコン、スーパーファミコン、X68000が遊べるコーナーも用意されていた
別会場にはファミコン、スーパーファミコン、X68000が遊べるコーナーも用意されていた

なお丸山氏によると、来春以降に「第3回」の開催も検討中とのこと。以前から、拙稿でさまざまなゲームのアーカイブ活動をお伝えしているが、「ゲームセンターBEEP」のように地域貢献を目指し、しかも今では滅多にお目にかかれない、アーケードゲームを利用したケースは極めて珍しい。

ゲームショップが主導する、地域貢献を念頭に置いたレトロゲームの新たな活用法の確立、そして「ゲーム博物館」完成の壮大な夢が実現することを大いに期待したい。

ゲームボーイやゲーム&ウオッチなども無料で遊べるようになっていた
ゲームボーイやゲーム&ウオッチなども無料で遊べるようになっていた

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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