Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

部下の営業活動が取締役を動かすくらいヤバかったのでシェアします。

部下の作った「絶対にダメ出しされない」究極の提案書がすごかったのでシェアします。 - Everything you've ever Dreamedのつづきです。

あいかわらず食品会社の営業部長という夢も希望もない仕事に従事している。今の僕を支えているのは、夢のない仕事で心身を壊したくない、無事に定年退職したい、という思いだ。営業部門には時々、他部門でいまいちな人たちが「営業の適正があるかもしれない」という淡い期待をもって送られてくる。この夏から営業へ異動になった50代後半のTさんは少し違う。前の会社では長年営業職をやっていたので、営業の適正あり、と判断されての異動、そう思っていた。

ウチの会社のシステムは、部長以上の役職者は全社員の日報を閲覧できるようになっている。僕は、営業開発部の部下の日報を翌朝出勤した時点で前日分をチェックし、気になった点があれば、呼び出してヒアリングしている。部下を会社上層部から守るためでもある。会社上層部には「暇」といっては失礼なので言い換えるが、「時間を持て余している超暇人」がいて、社員の粗さがしをしているからだ。

先日、年休を取得した。翌日出勤するや否や会社上層部が待ち構えていた。Tさんの営業活動内容がおかしいという理由でTさんと共に呼び出された。問題になったTさんの前日の日報には次のように書かれていた。

「某食堂。ランチが売り切れていたので、醤油ラーメンを食べました。800円」

食レポ?それとも何かの暗号?保育園児の手によるラーメンブログでももう少し記述があるはず。何か意図があるに違いない。その意図は何だ?

会社上層部は「ラーメンを食べただけではないのか」「指導がなってない」「これは仕事とはいえない。要・業務改善指導」と詰めてきた。おっしゃるとーり。だが、何かの間違いだと思った。50代後半の会社員がラーメンを食べましたと報告書に書くとは考えられない。僕は「何かの間違いですよね」とTさんに確認した。

すると、Tさんは「あーはいはい」と《ノープロブレム。今から説明するから安心してください》的な態度を取った。なお「あーはいはい」はTさんの口癖である。《よかったラーメンを食べているだけのバカはここにはいないんだ》と安心していると「すみません。間違いがありましたので訂正させてください。半チャーハンも付けました」という日本語が聞こえました。

確かにラーメンを食べただけではなかった。幸運だったのは、想定外の言い訳を、ご高齢の会社上層部の老化した脳が処理できなかったこと。この問題は僕に一任されて、追い出された。

「某食堂。ランチが売り切れていたので、醤油ラーメンを食べました。800円(+半チャーハン)」という怪文書について考えた。答えは出てこないので、Tさんを呼んだ。TさんはTさんで待ってましたという感じであった。お決まりの「あーはいはい」炸裂。

商談ブース。僕が「あの報告はなんですか?」と言おうとするのをTさんは「あーはいはい」と遮り「あれは以前部長から営業の仕事だと教わったものです」と言いきった。コレステロール値のおかしい僕がラーメンレポを仕事だと?ありえない。「それはどういう意味ですか」「あーはいはい。部長は以前、ウチは食材を扱っている会社だから街の食堂のごはんを見るのも営業の仕事だと仰いましたよ」

確かに言った。市場調査も仕事のうちだと。しかし…営業の仕事は新規開発から契約を取って売上を上げることである。競合他社との熾烈な戦いに勝つためには自社商品だけでなく他者商品や市場で流行っているものを知ることが必要不可欠だと言ったのである。つまり契約ゲットが主で、ラーメンレポは従である。ましてやTさんは月ノルマはずっと未達。まずは主たる仕事に全力を尽くすものだろう。それが醤油ラーメン半チャーハン800円。大塚愛かよ。ふざけんな。本末転倒だ。

僕はTさんにそう説明した。「あーはいはい。部長は本来の仕事と市場調査どちらが重要か言いたいのですよね」「契約を取る、仕事を持ってくるのが営業の仕事ですよ」「それは建前じゃないですか」「本音です」と僕がいうとTさんは眉間にしわを寄せ、出荷されていく養豚のような悲しげな表情を浮かべた。どうやらラーメンを食べたことで一日の営業の仕事を満たしていると本気で思っているっぽい。「部長は市場調査しないのですか?」「するよ。本来の営業の仕事の合間に」「あーはいはい。要領よくやっているんですね。私は年よりなので部長のように器用に力の配分が出来ないんですよ。だから営業の仕事と市場調査がフィフティフィフティの二刀流になります」こんな二刀流は認めたくない。

営業職は不思議な仕事だ。目標の数字を達成していればほぼ文句は言われないが、未達だと他にどれだけポジティブなことをやっても十字砲火を喰らう。Tさんは市場調査やってる感をアッピールすることで本来の仕事がうまくいっていないことをカムフラージュしようとしたのだろうが、逆効果である。長年営業職をやっていたのになぜそれがわからないのか。不思議だ。ていうか、なぜ、人の言葉を素直に聞けないのだろう。謎理論で正当化するのだろう。自信満々なのだろう。

再異動させたろか。「この人は戦力になりません」と報告すればいい。「あーはいはいが治らないんですよ」と愚痴ればいい。そこで考えなおした。業務拡大にともなって人員補充を訴えてきたのは僕だ。要望に応じて異動させた人材を使えないとつき返すのは、僕のことをよく思っていない会社上層部に弱みを見せることになる。それは嫌だ。僕はTさんを戦力化すると決意した。彼が食レポを仕事だと考えるならそこから戦力化へ向かえばよい。

「Tさん」「あーはいはい」「麺の量は?具の種類は?麺は乾麺生麺冷凍麺?提供スピードは?厨房は何人で回していた?」僕は質問を重ねた。調査をしてきたというなら答えられるはずだ。その答えは「あーはいはい。味に集中していたので覚えてませんね。我々の仕事、最大の任務は美味しい食事につなげることだと部長が言っていたので」こいつ…本当にラーメンを食べただけでした。戦力化まで地道にやるしかなさそうだ。

気になったのは、僕が真剣に質問をしている合間に「先週末は社長と飲みに行った」「年末も誘われている」など、社長との繋がりを明かしてきたことだ。どうも社長との個人的な繋がりで会社に入ってきたっぽい。会社上層部はそれを知っていて僕のもとに送り込んできたようだ。なるほど、それなら戦い方はある。僕が「Tさんが社長と親しいから何なんですか?私にはその手は効きませんよ」と言ってやると、Tさんは悲しげな表情を浮かべた。お得意の「あーはいはい」は出なかった。僕は会社上層部とのくだらない争いの最中にとんでもない爆弾を抱えてしまったっぽい。きっつー。(所要時間45分)