ソフト脅し取る「狩り」も発生 ファミコン発売40年、人気で社会問題に ゲーム市場は22兆円規模に迫る

2023年1月3日 12時00分

1983年に発売されたファミリーコンピューター(任天堂提供)

 社会現象にまでなった任天堂のテレビゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」の発売から、今年で40年を迎える。小さな箱が生み出す世界に、なぜ世界中の子どもたちが熱狂したのか。ゲームを学術的に研究している立命館大学の細井浩一教授(文化資源経営学)に質問を重ねながら、ファミコンの足跡と現在につながる意義を考えた。(岸本拓也)

◆子どもたちの「ゲーム欲求」をうまく開放

立命館大学の細井浩一教授

 1983年7月に販売されたファミコンは、2003年9月の製造中止までに、世界で累計6191万台(うち国内は1935万台)を売り上げ、ゲームソフトの販売は世界累計で約5億本に上った。大ヒットになった理由について、細井さんは「10年近くたまっていた子どもたちのゲーム欲求をうまく解放したのがファミコンだった」と説明する。
 70年代半ば以降、ゲームセンターや喫茶店に置かれたアーケードゲームが流行。スペースインベーダーやドンキーコングなどのヒット作が生まれた。しかし、そうした場所で遊べたのは主に大学生や高校生。「自宅のテレビで人気作をようやく遊べると、小学生たちがファミコンに注目したことがヒットのポイントだった」と細井さんは言う。
 ただ、当時すでに家庭用ゲーム機はあり、ファミコンはどちらかといえば後発だった。「ファミコンは発売当初から、算数遊びや英語遊びといった教育系ソフトもバランス良く取りそろえた。遊び専用のものが多かったほかのゲーム機と異なり、親としても買い与えるのに納得がいく絶妙の設計をしていたのはファミコンだけだった」とその独自性に注目する。

◆ドラクエ発売で人気決定的に

 子どもたちの環境変化もあった。80年代には塾や習い事に忙しくなり、空き地の減少や少子化が進んだ。失われた3間(時間・空間・仲間)を埋めたのがファミコンだったという。
 その人気は、85年のスーパーマリオブラザーズや86年のドラゴンクエストの発売によって決定的となる。ドラクエの新作の発売日には子どもたちが学校をずる休みしたり、購入者からソフトを脅し取る「ドラクエ狩り」が起きるなど、社会問題にもなった。
 そんなファミコンが切り開いた世界のゲーム市場は現在22兆円(角川アスキー総合研究所調べ)に迫る規模に育った。特にスマホゲームの伸びは著しく、ファミコンのような家庭用ゲーム機を超える規模になった。手軽な半面、依存の危険性や「ガチャ」と呼ばれる課金の問題など新たな課題も浮上している。
 そうした課題を抱えつつも、ゲームの技術を競うeスポーツやメタバース(仮想空間)の発展などで、ゲームを楽しむ人が今後も増えると見込まれている。

◆社会に根付くゲーム 原動力はファミコン世代 

 さらに細井さんは、ゲームという存在が遊びの世界を超えて、社会に根付きつつあることに注目する。「例えば、(ゲーム要素を取り入れて関心を高める)ゲーミフィケーションはここ10年で教育や医療、ビジネス、学術などで広がり、社会的な仕組みに組み込まれている。こうした仕組みを生み出す原動力となっているのが、ファミコン世代だ」と指摘した上で続ける。
 「IT系で活躍する人たちのモノの考え方、作り方がファミコン的なフレームワークの影響を受けていると感じる。今ではファミコン世代の子どもたち、つまり第2世代の人たちが、(ファミコンゲーム風の)ドット絵をアートに取り入れるなど、その影響はますます深いところまで根付いている。ファミコンで花開いたゲーム文化は、今後もどんどん形を変えながら未来を切り開いていくだろう」

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