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エムツー・堀井直樹社長に聞く「ゲームを未来に残すには」(01)

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。


今週から、対談は新シリーズをお届けする。

対談のお相手は、有限会社エムツーの堀井直樹社長。ゲーム開発会社であり、いわゆる「レトロゲーム」の復刻・移植作品を多く手がけている。

その徹底したこだわりはゲーマーから支持を得ている。セガと組んだ「セガ作品復刻」シリーズや、「メガドライブミニ」「PCエンジンmini」などの小型ハードへのゲーム移植などで知られる。ゲームをいかに、「過去に遊んだあの時の感覚」で残し、良いものにしていくかにこだわった職人集団だ。

同社トップである堀井さんと西田は、取材やTwitterなどを通じてお付き合いがある。

今回は改めて、「僕らを育てたゲーム、どうやって残していこう」という話を2人で語り合った。

まずは「ゲームとPC、あなたはどこから?」的な話からスタートしていくこととしよう。(全5回予定)

なお、初回分は無料公開されるが、2回目以降はnoteでの都度課金もしくは月額制マガジン「小寺・西田のコラムビュッフェ」ご購読が必要になる。


■スマホのゲームだって「努力」しないと残らない

西田:ゲームという観点で、「持続性」も重要じゃないですか。昔からあるゲーム、僕らが楽しんだゲームというのをもう一回やりたい、というのもあるし、それをちゃんと商売にしたい、というのも当然ありますよね。

堀井:はい。

西田:でも一方で、商売にするのも、ゲームをちゃんと動くようにするのも、とっても大変なことだと思ってるんですよ。ところが、ユーザーの方というか一般の方って、あんまりそこのところはそんなに、意識したことはないので。「あれは出ないんですか」とか、簡単に言っちゃったりするので。

堀井:わりと簡単に言いますよね。スマホのゲームはずっと動くのになんで? と言われるけど、実はスマホのゲームは全然動かないので。売れている(≒使われ続けている)アプリが血を吐きながらOSのバージョンアップに食らいついているという話であって、そうじゃない奴は忘れ去られている(苦笑)

西田:そういったところも含めて、ゲームを動かし続けるってどんな大変なことなのか、という話は、やっぱりそれはエムツーさんに聞くのがベストだよね、ということを思ったので。

ちらちらTwitterで絡んでいるうちに、これは堀井さんに聞けるな、と思って。ちょうどいい機会だったので、じっくりお話を伺おうかな、というのが趣旨でございます。

堀井:はい、了解です。よろしくお願いします。

■『インベーダー』の音が違う

西田:まずですね、堀井さんが、ゲームを移植するビジネスを始めたきっかけからいこうと思うんですよ。もちろん、僕はある程度知ってはいるんですけど。

堀井:もちろん、この話を読む人たちに。

西田:最初にPCに触れたのって、おいくつぐらいの時ですか。

堀井:「触れた」にもいくつか考えがあるんですけど、本当に最初は小学校5年生ぐらいの時に、テレビのプロデューサーをやっているお父さんがいらっしゃる人の家で、PC-8001に触れたんですよ。そこで『スペースインベーダー』が動いてたんですね。

西田:それって、いわゆるちゃんとした移植の『インベーダー』なのか――

堀井:いや、当時のやつだから。

西田:「なんとなくインベーダー」ですよね。

堀井:可能なかぎりタイトーっぽくしてましたけど、お金払ってたかとかは全然わかんないやつで。

西田:なんとなくあの頃に多かった、それっぽい移植の『スペースインベーダー』を触った。

堀井:そう。これで100円要らなくなる。南治(一徳)さんの記事とかを読ませていただきましたけど、やっぱり家で自分もやってみたい、という気持ちはすごく強かったですね。

西田:ええ。すごくよくわかります。僕もそれはまったく同じだったので。

これで100円入れてやらなくていい。

堀井:そうそう。やらなくていい。

西田:うちには兄がいて、テクノロジーのことは全然わからない、別の方向性の人間なんですけど、僕がPCをねだってるのを見て、「お前、これを買ったら俺は『ジャンピューター』を金を払わずにやれるのか」みたいな話になって。

堀井:つまりそういうことだよな、という。

西田:つまりそういうことだよな、という(笑)。やっぱりこの当時はありましたよね。

堀井:そうですね。

西田:で、そうやって触っていくうちに、当然のことながら、いろんなゲームがPCで動いて、アーケードでもいろんなゲームを遊んで……とやっていくと、「あれ、これ、お互い違うぞ?」となるタイミングがあるわけじゃないですか。

堀井:それは最初の『スペースインベーダー』からそうで。

西田:はいはい。

堀井:すごく画面は似てたんだけど、音が鳴らないんですよ、PC-8001では。あの「ドゥッ、ドゥッ」という音は。

西田:そうそう。あれはちょっと特別な音だから難しいですよね。

参考動画(公式・再現音源使用)
【実演】名古屋撃ち taitochannel

注:有志による音源比較 スペースインベーダー 音の違い

堀井:うん。その人の家で話をしてる時も、フロッピーがあってプリンターがあるような、すごい家でしたけど、「音が鳴らなくね?」と言ったらかなりキレられたというか、むっとされたというか。気持ちはすごくわかるんですけど。

西田:はははは(笑)。わかります、わかります。

堀井:まあ、差があるよね、というのはやっぱりすぐわかるわけですよね。

西田:うんうん、なるほど。で、その中で、最初の頃は「しょうがないよね、動いてれば」という部分も若干ありつつ、動いてるだけでありがたいじゃないですか。

堀井:若干も何も、ねえ、もう超ありがたいですよねえ。

■「ゲーセンのゲームはなぜ滑らかに動くのか」

西田:で、遊んでいて。そのうちに、「これ、自分たちでなんとかしたいな」と思う時期がくるわけじゃないですか。

僕の場合には――僕の話をすると、僕も高校時代に、田舎だったので。僕、福井県の育ちなので、アーケードに入らないゲームがあるわけですよ。

堀井:ああ、遊べないやつがですね。

西田:ええ。で、雑誌とかを見てて、「なんだよ、このナムコの『モトス』ってめっちゃ面白そうなのに、(近くのゲーセンに)入んないじゃねえか!」と。

さらに言うと、「これ、ロジック的には作れるんじゃない?」と一瞬思い。

堀井:わりと簡単そうだよね、みたいな。

西田:全然違うのは後からわかるんですけど(笑)、一瞬、ロジックが簡単そう、というところから、僕も一生懸命、移植をしようとしたりとかした記憶はあって。

あの当時、ちょっとなんとなくこだわりがある、ゲームとパソコンを触ってる子供は、アーケードゲームをなんとか再現しようとしたりするじゃないですか。

堀井:してましたねえ。

西田:何からやりました?

堀井:僕は、あれですよね。自分でゲームを一本完成させる、って経験は実はないんですけど。ドット絵に進んじゃうので。

西田:ああ。

堀井:ただ、『スペースインベーダー』を触ったあと、PC-8001を見たあとに、パソコンが欲しい、となって。人の家でM5(注:ソードのゲームパソコン)とか、PC-6001とかも見るわけですけど。じゃ、そのへんを買えたらいいな、値段も安いし、とやってるうちに、貯金をして手に入ったのって、X1(注:シャープ製)なんですよ。

西田:ああー、なるほど。

堀井:X1ってPCG(Programmable Character Generator)があったから、BASICでもけっこう画面が描けるんですよね。

西田:うん。そうですね。

堀井:最初は、アタリフォントとかナムコフォントを、全部そのまま目コピして、list取るだけで美しいな、と思って。BASICで。

西田:ええ、ええ。

堀井:あのフォントで、文章というか、書面が表示されるところでうっとりする、という。ゲーム全体の移植というよりは、まず、その文字の雰囲気を家に持ち帰って、じゅうぶん楽しめてた時期ですね。

西田:すごくよくわかりますね、それは。

なるほど、で、そうやっていくうちに、周りの友人だとか、いろんな人たちと交わる中で、自分はここをやる、ここをやる、と言って、なにか一個作ってみようぜ、みたいな話が出てきたりはするものなんですか。

堀井:でもあれですね、中学、高校と上がっていくにつれて、同好の士が増えるし、これはあんまり書けない話なんですけど、当時ってパソコンのゲームって高かったので、「理由は知らないですけど」同じ機種を持ってる人がなぜか寄り集まる。

西田:うん、「なぜか」そういう傾向がありましたね。

堀井:同じ機種を持ってる人が集まると、技術的な知見とかもどんどん増えていくし、やれることも増えていく、というのはありますよね。

西田:そこで、技術的な中身というか、それはグラフィックも含めてですけど、ご自身がまず興味を持ったところってどこだったんですか。やはりグラフィックのところが中心なんですか。

堀井:なんでゲームセンターのゲームは、たくさんのキャラクターが滑らかに動くのかというのがわからなくて。

たとえば、PC-88で、すごく頑張ってプレーン数を減らして、1ドットでスクロールさせても、ゲームセンターみたいには滑らかじゃないな、って。

今だからわかりますけど、なんでかというと、画面の同期を見てないからなんです。というのとかがあって、理屈では1ドットでスクロールするはずなのに、なんでゲーセンみたいにスムーズじゃないんだろう、みたいなところをえらく気にしてたのは覚えてますね。

西田:ああー、たしかに、それはそうですよね。

堀井:波打ってるんですよね。

西田:おっしゃる通りで。どうしても自分で、同期のこととか何も考えないで――当然最初はそう作るじゃないですか。そうすると、当然、スクロールする時に、ぶにょんっ、という感じの、気持ちわるい波打ちが存在したりだとか。

堀井:そうそう。

西田:あと、パレット変えをするときに、妙なチラつきが出たりとか。

堀井:そうそう。上と下で色が違うとか、というのが出てくるんですよ。

西田:で、あれ~?とか思いながら作ってるんだけど、その時は僕らも知識がないので、これはどういうことなのか。逆に、これが出ないアーケードでは何をやってるのか、みたいなことがまったくわからなかったですね。

堀井:そう、わからない。

X68000を買えば『グラディウス』が作れるわけじゃないですか、言っちゃえば。だけど、X68000を買ってきてX-BASICを触ったところで、あれも画面の同期がないんですよ。

西田:ないですね。

堀井:同期がないので、『R-TYPE』の巨大戦艦に張り付いている砲台は、どうやったらずっとズレずに動かせるんだろう、というのは疑問のままなんですよね。

西田:はい。おっしゃる通りです。

堀井:そこから先に行くには、アセンブラとかを学んで、I/Oポートというものを知って、V-Blankで物を書き込むことを覚えないといけないんですよね。

西田:うんうん。

堀井:あ、なるほど、1秒間にだいたい60コマあって、そのコマのタイミングで更新すればズレないんだ!って、最初に教えてくれよ…って思うじゃないですか。

西田:そうなんですよ。画面というのは60分の1秒に1回書き換えられてて、そこと書き換えるタイミングがズレると、人間の目にはズレて見えるよ、なんて話は、どの教本にも書いてなかったので。

堀井:書いてなかったと思う。うん。

西田:ほら、結局、コードの書き方が書いてあったりだとか、こういうルーチンを組みましょう、というのは書いてあるんだけど、リアルタイムグラフィックスでゲームを作る時に、どういうふうにするとああいう絵になるか、って、たぶんね、僕は、この業界に入って、取材をしてゲームメーカーさんに「それはね」って教わるまで、わかんなかった記憶がありますね。

堀井:ああー……でも、本当にそんな感じ。

西田:要は、そのルートを通ってないと見てないから。

堀井:そうそう。ファミコンとか、そういうのを最初にいきなり触らされればわかるんでしょうけど、パソコン経由だと、X68000みたいな、アーケードゲーム基板みたいな機能がついてれば別ですけど、基本的にそんなことを気にしてる場合じゃないんですよね。とにかく、なんとか書き換えて動かさなきゃいけないから、たぶん。

西田:そこのところが、PC――PCというか、あえてパソコンと言い続けますけど。

堀井:はい、パソコンです。

西田:パソコンの中に、ありとあらゆることができる夢の要素が詰まっているように見えて、実は夢にたどり着くには、ものすごい努力をしなきゃいけないとか、「ポイントとしてここを押さえなきゃいけないよ」というのがある、というのは、なかなかわからなかったですよね。

堀井:わからなかったですね。

まあ、それでもパソコンを買えば、まず最初に「一方通行だったテレビのブラウン管に自分の名前を表示できる」という、0が1になる瞬間があるので、全然問題なかったんですけど。でも、そこは誰も教えてくれないからわからなかったですよね。

<次週へ続く>


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